だらだら旅のお供に、本を何冊か持って行っていました。
荷物にならないように、文庫本です。
恵比寿のアパートも引き払って本棚を整理していたのもあり、
未読の古い本がよりどりみどり(苦笑)。
その中からふと掴み取っていたのが、新藤兼人さんの『小さな窓から』でした。
1989年1月20日第1刷とあります。
1985年に出た単行本が文庫化された際に、新刊で買ったものの、
ずっと読んでいなかった本かと記憶します。
ドイツでの電車移動や、船の中でふと開いて読んでいました。
昭和18年に結核でなすすべもなく亡くなった最初の奥さんの話、
エノラゲイの機長に会いに行った話、高橋竹山のエピソード、
小津安二郎監督のシンガポール引き上げの際のエピソード、
カナダで強制収用されていた日系人に会いに行った話、
どれもこれも、
「一篇ずつシナリオを書こうと心がけた」(単行本時のあとがきより)
という気概を感じる文章でした。
15歳で亡くしたお母さんの思い出には何度か触れています。
「母が残してくれた写真がたった一つある。賢い目が正面を向いている。
その目は愁いをふくんで遠くを見ている。父や兄や姉はみんな死んでしまった。
私が死んだら母の面影を知る人はこの地上からいなくなる」
そして最後の一篇は、10歳のころにお母さんが縫ってくれた久留米絣の話でした。
「母は十五のとき死んだ。そのときは家屋一切を失っていたので、
私に残された着物はこの久留米絣だけだった。だが筒袖だったので大人になっては
着られなかった。ところが筒袖に袂が縫いこんであるのを兄嫁が発見してくれた
のだ。
大人になっても着れるように、母は袂を縫いこんでいた」
貧しかった20代にずっとこの着物を着て、30代には袷にしてもらい、
40代には裏返して仕立て直してもらい、そしてとうとう
半纏に仕立て直してもらって、それでも着続けたと。
着物を縫っていた母の思い出で締めくくられています。
旅行中、亡くなられたという報道を聞きました。
たくさんの映画、あまり観ていなくてすみません、
また折に触れて観ていきたいです。
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