長くつ下のピッピの世界展

東京富士美術館で開催中の「長くつ下のピッピの世界展~リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち~」に行ってきました。

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日本・スウェーデン外交関係樹立150周年記念
「長くつ下のピッピの世界展~リンドグレーンが描く北欧の暮らしと子どもたち~」
東京富士美術館:本館・企画展示室
http://www.pippi-ten.com/

「スウェーデン王立図書館所蔵、ユネスコ“世界の記憶”に登録された『長くつ下のピッピ』等の貴重な原画をはじめ、
スウェーデン、デンマーク、エストニア他より、「ピッピ」「ロッタちゃん」「やかまし村」シリーズ等の原画や、
オリジナル原稿、愛用品など約200 点が出品され、その多くが日本初公開」

「リンドグレーンがタイプし、愛娘の10歳の誕生日に贈った『長くつ下のピッピ』原稿がスウェーデン国外に初出展!」

これは凄い、リンドグレーンさんが1944年に娘のために手作りした本の本物が来てるんですね。
リンドグレーンさんの作品では、バムセが出てくる「ロッタちゃん」シリーズの方が個人的には推しなのですが、これはもう行くしかないな…と。

八王子からバスで富士美術館へ。

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展示冒頭のリンドグレーンさんの文章にいきなりつかまります。

「本を手にした子どもはひとり、魂の秘密の空間に、自分だけの絵を描きます。
そうした絵は、何にも勝るものです。人間には、このような絵が必要です。
子どもたちの想像力が絵を描けなくなる日は、人類が貧しくなる日です。
世界で起きたあらゆる偉大なできごとは、
初めは誰かの想像の中に生まれました。
明日の世界がどんなふうになっているか、その大部分は、
今まさに読むことを、学んでいる人たちの想像力の大きさにかかっています。
だからこそ、子どもたちには本が必要なのです。」

そして1944年5月21日、愛娘の10歳の誕生日にプレゼントした手作りの本の展示。
娘が思いつきで「長くつ下のピッピ」の話をしてと言い、

それにこたえて作って言葉で聞かせていた物語が、
初めて本の形になったものです。

ピッピは世界一強い女の子、自由に生きている。
リンドグレーンさんは自身の作品について解説することは好みませんでしたが、

という前置きとともに、
ピッピについて語ったことが少しだけ引用されていました。

「もし私が、ピッピというキャラクターに、
子どもの読者を面白がせようと思う以外に
特別な意図を込めたとするならば、
力を持ちながらも、その力に振り回されないことが
可能であるということを示したかったのだと思います。
おそらく、それが人生でいちばん難しい課題でしょうから。」

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そして、ピッピの挿絵やマンガを描いていたイングリッド・ヴァン・ニイマンさん。
残念ながら生き続けることができず早くにお亡くなりになっていること、図録に書かれていました。
日本の芸術にも興味を持たれていたようです。
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イングリッド・ヴァン・ニイマン画
「赤い着物を着た日本の女の子」と「ツルのデザインの着物を着た日本の女の子」
(1957-1959年)

意外に撮影可のものがあり、ちゃんとしたカメラを持っていけば良かったです。

会場では、1978年にリンドグレーンさんが

ドイツ書店協会平和賞を頂いた時のスピーチが流されていました。
「ネバー・バイオレンス」と題されたスピーチは、
当時やや過激で物議をかもしたようですが、
子どもに暴力をふるえば暴力をよしとする大人になる、暴力のない世界のためには、
まず家庭内の暴力を無くすことから始めなければならない、という訴えに聞こえました。
そしてその翌年、スウェーデンで世界で初めて子どもへの体罰を禁止する法律が成立しました。

アストリッド・リンドグレーン著、石井登志子訳
『暴力は絶対だめ!』
2015年、岩波書店
(1978年のスピーチを書籍化したもの)
それから、ピッピ以外の作品の展示が続きます。
『やかまし村の子どもたち』、そして『ちいさいロッタちゃん』。
ロッタちゃんの秘密の隠れ家に、バムセいました!
ヘロヘロですが(笑)、いいやつでした。
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グッズ類はもちろんピッピ中心ですが、やかまし村やロッタちゃんものも少しありました。
グッズになっている絵は、もちろん原画来ています!
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自分の家からはちょっと遠かったですが、行ってよかったです。

東京会場は9月24日までで、その後巡回するようです。

 宮崎:2018年12月15日(土)~2019年1月27日(日)
京都:2019年2月8日(金)~2019年3月4日(月)
名古屋:2019年4月27日(土)~6月16日(日)
福岡:2019年7月6日(土)~8月25日(日) (予定)
愛媛:2019年9月7日(土)~11月4日(月)

正確なことは公式サイト http://www.pippi-ten.com/ にてご確認ください。

最後に少々付け足しの話。

かつて高畑勲氏・宮崎駿氏・小田部羊一氏らは『長くつ下のピッピ』をアニメ化するため

東映動画からAプロに移籍したけれど、版権許可が取れず幻に終わったといいます。
私がその話を初めて知ったのは、1984年に出た
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『アニメージュ増刊 映画「風の谷のナウシカ」ガイドブック』(1984年、徳間書店)
に収録されていた宮崎駿氏へのインタビューでした。
「宮崎駿 自作を語る」というその記事で、「ピッピ」に関する補足として
小田部羊一氏のコメントが紹介されているので、一部引用します。

「『アリババ』を最後に、宮さんと高畑さんとぼくは東映動画をやめました。
というのは、すでにAプロに行っていた大塚さんが『長靴下のピッピ』をやるというので、
その魅力にとりつかれ、3人ではせ参じたというわけです。
その海外ロケに現場の責任者として宮さんがスウェーデンに行ったのですが、
原作者の許可がとれず、ついに断念しなければならなかったのです。
その段階では、高畑さんの脚本はもちろん、テストフィルムまででき上がっていたんです。
ぼくらはやれるものと信じていただけに、悲しかったですね。
『ピッピ』をやるつもりで東映動画をやめていったのですから、いっぺんに目的がなくなったわけです。
その思い入れが『パンダコパンダ』の中にピッピを登場させることになったのですが、
正直、中途半端に終わりましたね。」
(「宮崎駿 自作を語る」に補足された小田部羊一氏のコメントより)

このインタビューの中で、宮崎駿氏は、『ピッピ』のことを「非常に意味があった」と振り返っています。

「『パンダコパンダ』は『ピッピ』のテーマを最初にやった作品。だから過渡的なんですよ。
マンガと高畑勲の生活アニメーションの。生活アニメーションというか、日常を舞台にしたものとの。
日常性を重視していくということだと思います。日常の中におきたひとつの出来事に、
主人公がどういうふうに対応していくかという。『パンダコパンダ』はやっぱり過渡的ですね。」
(「宮崎駿 自作を語る」より)

私が『長くつ下のピッピ』に初めて興味を持ったのが、この話を知ってからです。
今は、こんな本が出ているのですね。


高畑勲・宮崎駿・小田部羊一著
『幻の「長くつ下のピッピ」』
2014年、岩波書店

いつか読んでみたいと思います。

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