人間は自分に理解不能なものと出会った時、まず不安を感じる。そしてそれ が自己のアイデンティティを動揺させるものであるなら、なるべく目をそむけ 真剣な接触を避けようとする傾向にある。文化(=幻想)は「分類して名前を 付ける」ことにより境界線を設け、精神のホメオスタシスに奉仕する。男と女 という分類、大人と子供という分類などもそうである。評論家は新しい境界線 (分類する言葉)を作る役割を持つ。「新人類はわからない」と言うことで、 年寄りは若者を理解できないまま、けれど安心することが出来た。
紡木たくの作品は「彼らのことをわかって欲しい」という願いで満ちている。 本当はわかっているのに「わからない」と言うことによって安心しようとする 人たちに「わかって」と声にならない言葉で願う。それは祈りにも似ている。 『瞬きもせず』にでてくる「もっと人の心の深さを知れ」というセリフが紡木 たくの作品のすべてを象徴している様な気がした。
(立野昧)