10月29日に行われた、Studio Life「はみだしっ子 ~White Labyrinths~」の公式レポートを紹介します。
劇団スタジオライフ 舞台『はみだしっ子~White Labyrinths~』製作発表記者会見レポート
男優劇団スタジオライフが三原順原作の『はみだしっ子〜White Labyrinths〜』を舞台化する。 『はみだしっ子』は1975年から1981年まで「花とゆめ」に連載され、熱狂的なブームを巻き起こした傑作漫画。親に 見捨てられ、この世の「はみだしっ子」となったグレアム、アンジー、マックス、サーニンという4人の少年たちが ある時は温かく、ある時はしたたかに生きていく様を描いた作品だ。 2017年に初めてスタジオライフが上演した際には「奇跡の舞台化」と言われ、多くの漫画ファンを劇場へと向かわせ た。2018年の続編上演に続き、2020年が3度目の舞台化となる。2020年に三原は没後25年を迎える。それに合わせて 2020年3月19日には豪華画集『三原順 All Color Works』の刊行が決定しており、再び三原作品への注目が集まる中 での舞台化となった。今回は4人の少年たちの人生の分岐点ともいえる大事件が起こる『山の上に吹く風は』のパー トを上演する。原作ファンからも熱狂的な支持を得ていて、いわば『はみだしっ子』の中核をなす部分をどのように 上演するのか、期待が高まる。公演に先駆けて10月29日、都内にて製作発表記者会見が行われた。
最初に劇団代表の藤原啓児による挨拶。「3回目の舞台化。初舞台化のときから上演するたびにドキドキしたが、三 原先生の読者の皆さんに支えられた舞台化でした」と作品に寄せる熱い思いを語った。 続いて、漫画家・芳崎せいむのトークが行われた。芳崎は『金魚屋古書店』(第16回文化庁メディア 芸術祭 審査委員 会推薦作品)、『アブラカダブラ〜猟奇犯罪特捜室〜』原作/リチャード・ウー(第1回さいとう・たかを賞受賞)などで 知られるが、代表作『金魚屋古書店』に『はみだしっ子』を登場させるほどの三原作品の大ファンでもある。今回舞 台化される『山の上に吹く風は』について直筆のイラストを見せながらトークを繰り広げた。 芳崎は『はみだしっ子』花とゆめコミックス全13巻のうち、『山の上に吹く風は』がターニングポイントとなってい ると明かす。 1〜3巻までは「世間から追い出され居場所がなくなった4人の少年が一つのシェルターを作った。当時の一般的な少 女漫画では、主人公を取り巻くシェルターが描かれることが多かった。はみだしっ子は4人が疑似家族的な愛情を 持って寄り添い合い、時には世間の風に触れながらも、またシェルターに戻るという物語だった」と語る。 4巻に描かれる『山の上に吹く風は』のエピソードは「シェルターが破壊される展開。雪に閉ざされた山の上で4人の 周りを大人たちが取り囲む密室劇で、いわば山の上が“小さい世間”であり“世界の縮図”になっているんです。タイト ルの「山の上に吹く風」は“世間の風”を意味している。未熟なままシェルターを失う様が描かれたのは、当時の少女 漫画では初めてのことだった。残酷かつドラマチックな展開で、三原先生は少女漫画の可能性を広げたんです」と漫 画家ならではの視点で、『山の上に吹く風は』を分析した。 また、「三原先生の読者の方たちから“『山の上に吹く風は』までは舞台化してほしい”とアプローチがあったと聞い ている。さすが、三原先生の読者は知能犯と言うか(笑)、ここまで舞台化したらその後を上演しないでは終わらせ られないことをご存じなんですね」と笑顔を見せた。 さらに『山の上に吹く風は』に続く話として「普通だったら、シェルターを再構築して“めでたし、めでたし”で終わ るところが、三原先生はそのようなことはなさらない。“世間の人たち”というのは完全に“まっとうな人”というわけ ではなくて、“世間の人たち”も実は誰もがどこかはみ出した部分を持っているんだということを感じる展開になると 思います。本格的な人間ドラマが始まる、多層的な物語の一片が『山の上に吹く風は』なのです」と語ってトークが 締めくくられた。
当日、司会を務めた曽世海司から「劇団員たちは芳崎先生の話をお聞きして、目からうろこが落ちることがたくさん あったと思う」と感想が述べられたが、出演者たちにとっても貴重なトークの披露となった。 芳崎は質疑応答でスタジオライフへの期待を聞かれ「幼稚園の頃から芝居をやっていて、スタジオライフを拝見する と“自分もやりたい”という気持ちになります(笑)」と笑いを誘った。また、三原作品の魅力について「カテゴリー には収まらないのが三原作品。三原先生がやむにやまれず、描かずにはいられなかった作品の力強さ、繊細さに惹か れます」と語った。
続いて、舞台『はみだしっ子〜White Labyrinths〜』の製作発表が行われた。 最初に登壇したのは、脚本・演出の倉田淳。ステージに並んだ3枚の公演ポスターを見て「ここまでやらせていただ いたんだな」と、感慨深い面持ちを見せた。 「『山の上に吹く風は』は、4人にとっては大きな分岐点。自分たちのシェルター、彼らが言うところの“サンクチュ アリ”にひびが入って、世間と対峙し、自分たちを見つめ直すというハードな話です。自分としても心して向かい合わ なければいけないと覚悟を新たにしました。(スタジオライフで上演するにあたって)『山の上に吹く風は』までは たどり着きたいと思っていました。でも、この先を舞台化するのは、ちょっと時間をおかないとできないかもしれま せん」と決意を語った。
続いて、出演キャストが登壇し、意気込みを述べた。まずは客演の二人から。 八島諒(客演・マックス役)「このような会見は初めてで心臓の音が聞こえるくらいに緊張しています。40年以上も 愛されている作品。3作目に出演させていただき、プレッシャーはありますがそれをはねのけて、妥協なく一生懸命 取り組んでいきたい」田中彪(客演・シドニー役)「僕は今年で28ですが、僕が生まれる前からの作品に出演させて いただけることに感謝しております。お客様に愛される作品になるようにしたい」続いてスタジオライフ劇団員が意 欲を語る。全員が続投キャストとなるTBCチームの松本慎也(アンジー役)「3作目の今回は文字通り山場を迎え る。関係性を大切に演じたい」、仲原裕之(グレアム役)「『はみだしっ子』は向き合えば、手を差し伸べてくれる 作品」、伊藤清之(マックス役)「今回が3作目、繊細な作品を丁寧に演じたい」(サーニン役千葉健玖は舞台出演 中で、会見には欠席)。半数が新キャストとなるCAPチームの関戶博一(グレアム役・『はみだしっ子』には初出演) 「前回は客席から観劇し『ほとんど台詞を覚えていたね』というお客様の声を聞いた。今は迎えられる立場だが自分 が引っ張る気持ちで頑張りたい」、宇佐見輝(アンジー役)「3度目のアンジー役。4人の関係性を大事にしたい」、 澤井俊輝(サーニン役)「新たなメンバーと心の手を握り合って演じたい」。
漫画を舞台化する「2.5次元舞台」ブームが起こるずっと以前から、漫画原作舞台を上演し続けているスタジオラ イフ。質疑応答でそのことについて質問された松本は「僕らは2.5次元を作っているという意識ではないんです。 人間としての心情と関係性があって、そこに大きなドラマが生まれる演劇作品を、生身の人間としてみんなで向き 合って作るという感覚でいます」と述べた。また、本作について「極限状態で社会の倫理から切り離されたはみだ しっ子4人の軋轢が舞台の見どころ」と語り、「真摯に突き詰めていく劇団なので、生のリアルな感情をお客様に届 けられるように。原作を知らなくても演劇作品として楽しんでいただける作品にしたいと思います」と意欲を述べ た。 劇団スタジオライフ 舞台『はみだしっ子〜White Labyrinths〜』は2020年1月8日(水)〜19日(日)、新宿シアター サンモールにて上演される。
(取材・文/大原 薫)
トークイベントに登壇された吉崎せいむ先生のツイートより
劇団Studio Lifeさんによる、『はみだしっ子』三回目の舞台化「~White Labyrinth~」の制作発表会に際し、三原順先生の原作『山の上に吹く風は』の紹介のために描いた図4枚です。
会見内容は、こちらの記事をお読みください。→https://t.co/NMDyjMxL0t pic.twitter.com/wT9Rk3vnUe— 芳崎せいむ (@yseimu) October 31, 2019
『はみだしっ子〜White Labyrinths〜』
原作:三原 順 「はみだしっ子」(©三原 順/白泉社)
脚本・演出:倉田 淳
日時:2020年1月8日(水)〜19日(日)
場所:新宿シアター サンモール
チケット発売:2019年12月1日(日)一般発売開始